けんの独り言

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お見舞いに絵手紙を描いたSさんのこと
2002/02/24

 父が病気で入院したのは、去年(2001年)の10月の終わり頃だった。親孝行の意味で始めた絵手紙だから、ここで本領を発揮せねばならないだろう。病室あてに毎日描くことにした。

 世間から隔離されて入院生活を余儀なくされている人には、一番の慰めは誰かがお見舞いに来てくれることだろう。でも、絵手紙はそれと同じくらいの励みになるに違いない。

 父が入院した当初同室だったSさんは、お元気な頃は俳句を詠むし、俳画も描いておられたという。同人誌に投稿したり、公民館で個展を開くこともあったとか。ところが、闘病生活では、一句ひねることや本を読むことさえままならなくなっていた。病気と闘うことに精一杯で、他には何も手につかない状態に見えた。

 私が父に宛てて描いた絵手紙を見たSさんは、私の顔を見ると「絵手紙はいいねえ」と言われる。また、父に付き添っている母が電話してきて、「Sさんにも1枚描いて」と言う。そこで、毎日描く枚数をもう1枚増やしてSさんにも出すことにした。

 Sさんは、すぐに父とは別の部屋に移られたので、週に一度お見舞いに伺うと、壁には私の描いた絵手紙がズラリと貼られている。「貴方からの絵手紙は日々を楽しいものにしてくれる」「明日に希望が出来る」「生きる喜びが湧いて来るようだ」と喜んでいただいた。私はそんなとき決まって「喜んでいただけるだけで嬉しいです」と言っていた。

 そのうちにSさんの部屋に伺うとノートを出して、俳句をひねる姿をお見かけした。「大丈夫ですか?」と声をかけると「あなたに元気を貰ったので、私も負けないように頑張る」と言われた。私からの絵手紙に励まされて、このまま元気になっていただけるのであれば、これほど良いことはない。しかし、まもなく病状の悪化でSさんは帰らぬ人となってしまった。

 四十九日も過ぎた頃、焼香のためご自宅を訪問した。私が差し上げた絵手紙は1枚1枚が葉書フォルダーにきれいに整理されていた。Sさんの奥様からは「主人も亡くなる直前にこんなに良くしていただき、喜んでいました」「きっとあの世でも満足しているでしょう」というご丁寧な言葉をいただき、恐縮した次第である。







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